昨今の中学入試では、近代文学よりも現代小説から出題されることも多く、それらのお勧め図書については多くの塾などでも紹介されています。
我が家でも受験前に子供自身が興味が持てそうなジャンルの本を親子で選び、一緒に読んで感想を話し合ったことを覚えています。この経験は、子供自身の感じ方を直接みることができて、その先の勉強の進め方にとても効果がありました。
今回、過去に二人で読んで面白かった本を改めてまとめてみました。偶然にも主人公が小学生、中学生のものばかり(「駒音高く」は一部)で、筆者の描く子供の心理は私自身の子育てへの疑問や不安を解決してくれるものもありました。
ぜひ参考にしていただければ嬉しいです。
『きみの友だち』重松清
小学生の時の事故で足が不自由になった恵美と生まれつき体の弱い由香。二人はいつも一緒。二人だけで。周りの友だちは二人のことが気になったり気にならなかったり。恵美の弟ブンちゃんはなんでもできる優秀な子。転校生のトモもまたなんでもできる子。それに憧れる友だちや、嫉妬する先輩。
「きみ」というのは恵美のことかと思っていましたが、読み始めると実は違う意味なのだと感じました。同じ登場人物が小学生の時と、中学校時代では考え方が変化していくすべが描かれており、子供の心の成長を見て取れる物語です。
「みんな」の中に含まれていたいために、とても残酷な行動や言動をする子供たち。その表現がリアルで読んでいて胸が痛みました。男の子である我が子は女の子たちの集団深層心理を初めて直面しとても驚いて少し恐怖を感じたと言っていました。
『羊と鋼の森』宮下奈都
高校生の直樹は偶然学校のピアノを直しにきてくれた調律師の姿に感動し、調律師を目指します。やがてその時にあこがれた板鳥と同じ楽器店に採用され、新米調律師として働き始めます。そこで出会う先輩や調律する先で出会う姉妹たちを通じて自分自身も成長していく物語です。
なんといっても文章を読み進めるだけで音楽が奏でているような気持にしてくれる表現。羊と鋼の森というタイトルも調律するための器材を表しており、表現の美しさに感動しました。
直樹に多大なる影響を与える高校生の姉妹(和音と由仁)の葛藤とそれに寄り添って成長する直樹の心情を理解することがこの本のポイントではないかと感じました。
『岳物語』椎名誠
椎名誠さん一家の物語を息子の岳さんをモデルに保育園から小学校高学年までを描いたエッセイです。保育園時代の同級生とのやんちゃなエピソードはとても微笑ましいものでした。椎名さんの冒険家仲間の野田さんに連れられて体験した釣りでその魅力にはまってしまい、次第に自分ひとりで釣りや魚の知識を得るまでに自立していく様子は我が子と比べながら読んでしまいました。受験のために親子で読みましたが、こういう経験を逆にさせてあげられなかった自分に反省させられてしてしまった一冊です。
『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ
市の駅伝大会の6位入賞を目指す中学校駅伝メンバーの、各区を走る選手それぞれの目線で、タスキをつなげながらそれまでの出来事、その時の心情を描く物語。選手一人一人がとても個性的で、中学生らしくもあり、大人びているところもあり、みずみずしい感性で描かれている作品。
大人からは子供たちを叱咤激励のためにかけている言葉でも、中学生目線だとこうやって感じているんだなあと気づかせてくれました。親子で読み終わった後、お互いの見方が少し変わったように感じます。
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレディみかこ
イギリス在住の著者はイギリス人のパートナーとの間に息子が一人います。裕福な小学校から地元の底辺校といわれる中学校に入学した息子はそこに通う様々な人種の子供たちとの学校生活を通して、自分のアイデンティティを見つけて成長していく姿を描いたエッセイです。初版は2019年ですが、ジェンダーレス、ボーダーレスをうたう時代にますますフィットする題材ではないでしょうか。
多人種なスクールライフというのは現代の日本ではなかなか経験できないことなので、これらの一つ一つの場面について、親子でこういう時はどうする?どう思う?と会話が弾みました。
『世界地図の下書き』朝井リョウ
突然両親をなくし、養護施設で暮らすことになった太輔。そこで出会う子供たちとの交流と別れが描かれます。
普通にあるものを失ってしまうことを知っている子供たち。慕っている高校生の佐緒里への最後の思い出作りにとランタンを飛ばすために奔走します。
ランタンを作るために行う様々なこと、それはある意味問題提起となる場面と感じました。子供たちの心情、その時の大人たちの考え方については親子で深く話し合うことができました。
『駒音高く』佐川光晴
将棋会館で働く老齢の女性。年下の小学生に負けたことで初めてライバルを意識する少年。一人娘がどんどん将棋の世界で羽ばたいていく姿をみて、うれしさと寂しさを感じる母親。将棋の世界を舞台に、そこにかかわる様々な人の目線で描く7つの物語。
私自身が将棋には縁がなく、情報や知識を得るための向き合い方の描写が初めて見るものでとても印象深かったです。勉強に対する姿勢や思考能力は将棋の世界はとても参考になるのではないか、と子供と話し合ったのが思い出深いです。
コメント